2017年6月、東京都、首都大学東京および日本放送協会(NHK)は連携し、南硫黄島において自然環境調査を実施した。南硫黄島は、自然環境の厳しさから人が定住した記録がなく原生の自然が保たれている。自然環境保全法で立ち入りが禁止され、文化財保護法で島自体が天然記念物として手厚く守られている。山頂部を含む上陸調査が行われたのは10年ぶり、史上4回目となった。前回調査(2007年)では、地形・地質及び植物・動物の基礎調査が実施され、陸産貝類や維管束植物の新種を含む、多くの絶滅危惧種、準絶滅危惧種の生息・分布が確認された。このように、未だ貴重な原生自然が保たれ、未知なる自然が残されていることが判明した反面、外来種の脅威にさらされている状況も明らかになった。今回調査(2017年)では、前回調査の生物群に、体系的調査が未実施の甲殻類、土壌動物、地衣類、癬苔類、菌類を追加した。さらに、人間が到達不能な山域において、UAV(Unmanned Aerial Vehicle: DJI Inspire)を使った調査・記録を試みた。加えて、DNA分析により南硫黄島の生物地理学的な位置を明らかにするとともに、生態系の理解と保全のために各種分類群について生物間相互作用に関する調査を実施した。この他、シンクリノイガ等外来種の分布拡大状況や、新たな外来種の侵入状況の把握を重要項目とした。貴重な自然を守るために、調査隊が南硫黄島に外来種を持ち込まず、また同島の生物を持ち出さないための対策にも細心かつ最大の注意を払った。厳しく危険な自然環境ゆえ、安全確保は最大の課題であった。今回は、前回及び火山(硫黄)列島調査経験者が多く参加し大きなカとなった。それでも通常の無人島調査のノウハウが全く通用しないほど、南硫黄島の滞在には大きな困難が伴った。プロクライマー、プロダイバー、小笠原在住のフィールドワーカー、船舶関係者、父島・東京のサポート隊がスクラムを組み、知恵と力を出し合った。さらに、小笠原村の全面的な協力により船舶待機の医師をトップとする医療班を設営した。現地では、悪天候により一時総員が海上の船舶に待避して、調査続行の可否を思案する場面もあったが、幸いにして事故もなく、数多くの学術成果を持ち帰ることができた。南硫黄島は、小笠原諸島で最重要な保全地域であるとともに、同諸島の生態系の成り立ちを解明する上で最重要なフィールドである。また、世界的な環境変化を捉える上でも、重要なモニタリングポイントである。今後も、自然環境調査が定期継続する上で参考となるように、準備段階から調査実施までの仮定について、反省点・課題も含めてできる限り詳細に記録した。
In June 2017, the Tokyo Metropolitan Government, Tokyo Metropolitan University, and NHK (Japan Broadcasting Corporation) collaborated on an investigation of the natural environment of Minami-Iwo-To Island over a 16-day period (June 13–28, 2017). Because of the severity of its environment, Minami-Iwo-To has no record of human settlement and has the most well preserved natural environment of any island in the Ogasawara archipelago. Access to the island is strictly limited under the Natural Environment Conservation Law. The island is also listed as a natural treasure and conserved under the Cultural Property Protection Law. Our landing survey, which included the summit area on the island, was the fourth such survey to be conducted, and the first in ten years (since 2007). In this survey, we investigated plants, birds, insects, terrestrial shellfish, etc., and used an unmanned aerial vehicle (UAV) to take high-resolution aerial photographs of the area beyond the survey route.